2007年11月14日(水)
雲を測る男 
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金沢には数年ぶりだ。
何度か仕事で行ったのだが、不思議な事にどんなに遅くなっても泊まることはなかった。しかも毎回車の日帰りであったのだが、今回は電車で初めて行くことになった。
今回の出張、私一人ではなく取引先の営業の方とご一緒だった。このお得意先の営業のK氏から申し訳ないが販社の販売促進の営業会議に参加してもらい販売強化に一役買ってもらいたいと依頼されたのだった。
どんなに色々なものが発達し、インターネットなどの情報伝達のツールが発達しても、やはり、営業、商売は“人と人”である。何時間もかけ出かけ、人と向き合い、情熱を伝えなければならないことがある。結局そのコツコツに敵うものはない。最後はどれだけ足を使ったか、汗をかいたかになる。しかし、これは悲しいかな、必ず比例するものではない。何度も何度も徒労感を味わってきた・・・
振り返ると、そんな日々の積み重ねだった。
日本中、色んなところに行かせてもらい、色んな人と出会い
色んな事を教えてもらった。
これからも・・・・そうだろう・・・
会議は月曜の午前中、そうなると私は早朝から出かければ間に合わなくないが、お得意先の営業のK氏は関東からなので到底間に合わない、それではということで前の日から乗り込み、販社の幹部の方と食事でもして軽い打ち合わせということになり日曜日の出立となったのだ。
その日は夕刻の食事の時間までに到着すれば事足りるので、ゆっくり午後から出ましょうと
スケジュールを立てていた。しかし、私が金曜日の出張に出る間際にそのK氏から事務所に電話が入った。
「日曜日なんですが、もう少し早い時間に行けますか?」
「えぇ、大丈夫ですが、なにかありました?」
「いやぁ!美術館にでもご一緒できればと思い・・」
「あっ!ひょっとして21世紀美術館ですか?」
「そうです。どうですか?日曜日いずれにしても潰れますから、それならと思い・・」
そう言えば話題の美術館だ。行こうと思ってもなかなか行けない、ちょうど良いと思い、即座に返答した。
「いいですね!行きましょう!」
「分りました、じゃ午前11時に米原駅で落ち合いましょう!」
「はい。」
という事で日曜日米原駅から特急列車に乗り一路金沢へ向かった。
電車に乗るなり、ご一緒させていただいたお得意先の営業のK氏が一冊の本を取り出した。
「これなんですよ、実は上司にこれを渡されて、しっかり見てこいって・・すいませんつき合わせてしまって。」
「いや、私も見たかったから、気にされなくても・・」
と言いながら彼が手渡した本の表紙を見ると
超美術館革命。
金沢21世紀美術館の挑戦。
奇跡の美術館
ピカソもルノアールもない地方の市立美術館に
年間130万人もの人が来る。
蓑 豊 金沢21世紀美術館特任館長
へぇ~。。
ペラペラ読みだしたのだが、
巻頭から面白い!館長の感覚が“革新的”だ。
学者の匂いがない。等身大の発想豊かな、ビジネスマンだ!
いや、仕事に対する使命感と責任感、誇りが並大抵のレベルではない!
没入しそうになったとき、隣りの席から声が
「どうですか?」
「あっ、面白いですね。」
「すいません、全部読まれていないのに、遮って。でもサラサラと読んだ方がいいですよ
実は私も全部は読んでないんです。実際に美術館を見てから再度じっくり読もうと思いまして。」
「あっ、なるほど」
それもそうだと思い本を閉じK氏に返した。
帰ったら早速本屋によって買う事にしようと・・・
すると、
「私、この人のある文節を読んで、うん?全部読まずに先ずは実際を見ようと思ったんですよ。」
「???なんですか?」
「確かに優れた面がいろいろありますよ、しかし、何事もパッション・情熱が大事ということを強く訴えている点なんですよ。」
「へぇ~・・・パッション・・・」
「そうなんですよ、成功に導いたそのパッションっていうのを、まず言葉ではなく、実際を見て自分で確認しようと思いまして。」
「なるほど。」
確かに、自分の感覚が大事だ。自分の肌で感じる事が一番大事だ。人と違う感覚があるかも知れないが、それが本来のはずだ。。。
人間は知識で生きるのではない。
知恵があって生きてきたんだ。
知識があっても知恵がなければ・・・
金沢駅につくとどしゃ降りの雨。しかも少し肌寒い。
バスを探し香林坊という所でおりた。すると雨は上がっており、僅かな距離の間に天気が猫の目のように変わった。僅かな雨雲が激しい雨を降らし、その隙間隙間が不思議なことに青空がのぞいていた。なんともスッキリしない空、鬱陶しいかぎりだ。。
へんな空模様だなぁ?正直、出張に出て曇天だと
気持も萎えてくる・・・
バスの案内をしていた人間に美術館の場所を聞きその方向へ歩いた。10分弱で到着。
凄い人。これが美術館なのか?と正直驚いた。
しかも、さっき本で僅かしか読まなかったが、冒頭から主張していた、子供の来館者の多さが目の前に広がっていた。
なんと子供が多い・・そして老若男女すべての年齢階層がいる・・・・
。。。。。。。。
約一時間半、K氏と並びながらすべてを見た。すごかった。楽しかった。美術館の概念を変革しつくしている感があった。水戸芸に行ったときも圧巻だったが、今回のそれは比べ物にならない。しかし・・・・
少し疲れた。駅を降りてから感じた肌寒さが気になった。
風邪気味なのか?
いや、少し疲れているのかもしれない。
正直、この革新的な成功とパッション、今の自分には少し眩し過ぎた。
凄いなぁ。俺にあるかな?こんなパッション、この先に・・・・
なにか不安な気持ちが過った。
言葉だけではなぁ・・・具体的なパッションがいるんだよな。。
ぼぉ~としていると
K氏が、
「一服しませんか?」
「あっ、そうですね。」
外を見ると灰皿があった。
二人煙草に火をつけ深く煙を吸い込んだ。
どちらからともなく
「すごいですね」
という会話にならない会話だけ。しばらく黙って煙草を吸った。
すると、また雨が降り出した。
「あっ、また雨」
二本目の煙草に火をつけたところだった。少々の小雨ならばと二人雨の中煙草を吸い続けたが、数秒のちに激しい雨粒に変わった。
あわてて美術館に走って戻った。
美術館の玄関をくぐるとK氏が
「少し座りませんか?」
「はい。」
「あそこの、ほら派手なペイントした壁の前に、壁と同じ柄の椅子があるでしょ」
指さす方向を見ると確かに“がら~ん”とした空間。壁には派手なペイントその前には座ると気持ちよさそうな椅子がおいてあり、全面はガラス張りであった。幸い誰も座っていない。
よっこいしょ!
と二人腰を下ろすと想像していたように座り心地がいい。
はぁ~とため息をつき視線を目の前のガラス面の下から上へ移すと、美術館の中心に当たる円柱の建物の屋上が目に入った。
あれっ・・なにかある?
・・・あれっ?彫刻が・・・・
みると男性が空に向って物差しを掲げていた。
作品のタイトルも作家も知らなかったが、
こころの中の叫び声がはっきりと聴こえた!!
“雲を測っている!”
今日の曇天の中、彫刻の男性は
どの雲を測っているのか?
次の瞬間、目がしらが熱くなった。
俺だ!あれは間違いなく 、俺だ!
ずっと、ずっと
雲を測ってきた。
日本中の色んな空を見上げて
今も、
測りつづけている。
。。。。。
「そろそろいきましょうか?」
「はい」
「どうでしたか?パッション感じました?」
「はい」
明日からも
改めて
雲を測ろうと決心した!
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