2007年04月13日(金)
帝と桜 
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仕事は正直、惨敗に終わった。
くたびれた。。
もう辺りは真っ暗。
駅を降りて家路に向かう途中、小学校の横を通り過ぎると、桜がほとんど散って、わずかな街灯と月明かりに照らされた道に花びらが散乱していた。
桜が終わった事を告げられた感じがした。。
今年は桜を一度もゆっくりと眺められなかった。。
せっかく咲いてくれていたのに・・・
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なぜか、申し訳ないなぁ・・なんていう感覚が胸を突き上げた。。
どんな草花も神秘的な要素は兼ね備えているが
桜ほど不思議な花はない。
これほど極端な開花と、その花の短さは他の草花を寄せ付けない程鮮烈であり、近年益々桜に寄せられる人々が増えているような感じがする。
私も歳とともにその想いが強くなっているのが自分でも確認できる。
お花見という意味ではない。
なぜか、一人で見ていたいなんていう感傷的な感覚が年々強くなる。。
本当に感心させられる花だ。2週間、4月の初めに咲く。一年の内、たったの2週間。
忘れることなく咲く。何年も何十年も何百年も・・・・
不思議で仕方がない。。。。
数年前、知った。
今各地で咲いている桜のほとんどが江戸期に品種改良されたもので、本来の桜とは山桜であることを。
近畿で山桜といえば、吉野と連想は直結する。
古の高貴な人々が愛でた桜。それこそが吉野の山桜だ。
去年初めて見に行った。
京都から現代でも相当な時間のかかる場所である。この場所にそれこそまともな交通手段がない時代にかなりの時間をかけ桜を見に行った往時を想像すると、その山の持つ性格が改めて感じられる。
この山は特別なんだな!と・・・・
ソメイヨシノのような華奢な桜ではなく、がっしりとした強さを感じる桜。
ソメイヨシノのような不安な感覚を誘うような可憐さはないが、日本の原風景に息づく吐意気のような美しさが山桜には感じられた。
この山は別の意味でも特別だ。
自然の要害。
最終防衛拠点として、この地は幾度となく歴史に登場する。
この地の歴史上のクライマックスはやはり、後醍醐帝が開いた“南朝”だったんじゃないだろうか?
後醍醐天皇と吉野の桜!
“ ここにても雲井の桜さきにけりただかりそめの宿と思ふに ”
桜の逸話や思いは幾万も存在するが、後醍醐天皇と吉野の桜こそが、日本にとっては一番意味深いものを私は感じる。
今上天皇が追放されたという歴史上の重大事。
都を追われ、幾度となく捲土重来を期してこの地で臨戦態勢を布いたが、結局、無念のうちに崩御された。
私はこの帝が実は好きである。
何が?と聞かれても具体的な部分は特にないのだが、なぜか惹かれるものを感じる。
楠木正成などの英雄との関係からか?と思われるが、そうではなく、なんとなく帝自体が好きなのである。
中世以降、これほど野心的な帝は他にいない。
ほとんどの帝が時の権力者たる武士の傀儡に過ぎないし、場合によっては帝という呼称だけの空虚な存在でしかない。
それから考えても、実相が如実に伝わる帝であり、ギラギラしたものを感じる。
しかしながら、無念の内に山深い、政局から遠い地で崩御した、この帝の人生にとてつもない虚無感を感じることが惹かれる一番の理由かもしれない。。
去年、初めて吉野に行ったとき、玉座を見た。
“ まだなれぬいたやの軒のむら時雨おとを聞くにもぬるる袖かな ”
この歌にあるように、
まだ慣れない板葺きの粗末な小屋で、軒を叩く通り雨の音を聞くにつけても、我が身の境遇が思いやられ、悲しくて涙に濡れる袖だことよと・・・
実に粗末なものであり、日本の帝が一時であったとしても、こんな所にお住いだったとは?と想像するだけで、私の心はざわついた。
実に不憫である。
“うづもるる身をば歎かずなべて世のくもるぞつらき今朝のはつ雪”
我が身がこのまま世に埋もれてゆくとしても、歎きはしない。それよりも、世の中がおしなべて曇ってしまうのが辛いのだ、今朝の雪模様の空のように・・・・
後醍醐帝以降、天皇が政治・権力の表舞台に立つことは無くなる。
象徴となる。
しかし、それから幾百年後に再度天皇は政治・権力の表舞台に帰ってくる。
明治・大正・・・・
日本が敗戦した時の帝
昭和天皇と・・・・・
そして帝は再度、象徴となる。。
“ ふしわびぬ霜さむき夜の床はあれて袖にはげしき山おろしの風 ”
辛くて寝ていられない。霜が降りたように冷たい寝床は荒れて、袖の隙間に吹きつける、激しい山颪の風・・・・・・
後醍醐帝と昭和天皇。
この幾年月のあいだ
吉野桜は咲き続けてきた。。
その以前の幾年月と変わることなく。
忘れず春になると・・・・
今も咲いている。

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